俺がそう答えると警部は

俺がそう答えると警部は、グラスに三分の一ほど残っていた焼酎をグイッと飲み干した。警部の唇とヤモリの唇がキッスをするように見える。正直そんなものを飲める人の感覚が分からない。と言うよりは信じられない。そんな表現が正しいと感じる。

「おーい、お兄さん。わしにはヤモリ焼酎のお替りと、玉をちょうだい」と言いながら手元にあった生協共済と国民共済の比較のチラシを手に持ち、読み始めた。

 警部が注文した『玉』とは、牛の睾丸の事である。それを冷凍の状態にしてから薄くスライスしたものだ。それを刻んだねぎとみょうがでポン酢につけて食べるのである。かなり精力が付き、夜、寝るのが出来なくなるそうだ。この酒の肴、と言えるかどうかは別にして、あまり独身には勧めないほうが良い物である。

 一時間ほど警部からの小言を聞いて三人で店を出た。警部は仕事柄、深酒はご法度であるからその場で別れて山下と二人になった。この男、俺はあまり好きにはなれない。たぶん山下も俺の事が嫌いであろう事は、雰囲気で分かる。だが二人とも警察に絡む仕事をしている、それで何かの縁があるかもしれない。

 それにまともに食事をしたとは言えないので、山下と一緒に近くのラーメン屋に入った。彼とは、仕事に限らずプライベートという意味でも差し当たりのない言葉を選び、面白くない会話が進む。時間にして二十分程で山下と別れて事務所に帰った。朝の九時を少し廻った頃に続く。

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